日本では長くローンにおいて低金利の状態が続いており、不動産投資ローンはその恩恵を受けて利用者(物件購入者)も増加しました。あまりに長く低金利が続いているため、忘れている方もいらっしゃるかもしれませんが、今後は金利が上昇するリスクがあります。
金利について、〇年後に〇%上がるといった予測は不可能ですが、融資を受ける段階で〇%まで上がっても耐えられるといった計算をしておくことは大切なことです。本記事では、不動産投資ローンの金利についてお伝えすると共に、将来的に金利が上昇することを想定したシミュレーション等をご紹介します。
現在は超低金利時代
2019年4月現在、不動産投資ローンは超低金利時代と呼ばれており、非常に低い金利で融資を受けることができます。これは、政府がアベノミクスと呼ばれる「異次元の金融緩和政策」を取っていることがその理由の一つで、日本は2016年にマイナス金利を導入したことは記憶に新しいかと思います。
しかし、今後についてはどうなるか分かりません。不動産投資は数十年単位で高額なローンを借りる投資のため、将来のことまで想定して準備しておくことが大切です。
金利の仕組み
金融機関は個人や法人から預金を集め、集めたお金を融資が必要な個人や法人に貸付しています。お金を預けてくれた人に対しては利息を支払う必要がありますし、一方、融資をした相手からは金利を取っており、その差額が利益となります。
金利の仕組みの基本としては、景気が良ければ金利は高くなり、景気が悪くなれば金利は低くなります。その理由は以下の通りです。
- 景気がよければ企業は設備投資等に積極的になり、高い金利でも借りてくれる
- 景気が悪くなると企業が設備投資等に消極的になるため、融資の需要が減る
- 融資の需要が減れば、金融機関は金利を低くしてでも金融機関に融資したいと思うようになる
実際には、金利はさまざまな要因が絡み合って変動していきますが、基本的な仕組みについては覚えておくとよいでしょう。
金利は何を指標に変動する?
ところで、不動産投資ローンの金利は何を指標に変動するのでしょうか。不動産投資ローンには変動金利と固定金利があり、それぞれに指標となるものが異なります。変動金利は、半年に1度金利の見直しが行われるタイプの金利で、「短期プライムレート」と呼ばれる数値に応じて変動します。
一方、固定金利は、3年や5年、10年といった、最初に指定した期間だけ金利の固定を受けられるタイプの金利で、こちらは「長期プライムレート」に連動します。
短期プライムレートとは
短期プライムレートとは、金融機関が優良企業向けに1年以内の短期で融資する際に提供される最優遇貸出金利のことを指します。不動産投資ローンの変動金利は、この短期プライムレートを参考に各金融機関の事情等踏まえた金利が設定されます。
短期プライムレートの推移
なお、短期プライムレートについては、日本銀行のサイトで過去から現在までの推移を見れます。ちなみに、短期プライムレートは2009年1月に1.475%になってから現在まで変動していません。
過去のデータを見てみると、1990年12月にはなんと8.25%(それより前の1980年には9.25%だったことも)という数値をつけていますが、その後バブル崩壊と共に下降を続け、1995年9月に1.625%をつけてからはちょっとした上下は見られるものの、概ね横ばいで推移しています。
長期プライムレート
長期プライムレートは金融機関が最も信用度の高い優良企業に対して1年を超える長期で貸し出す際の最優遇貸出金利のことで、固定金利など長期金利の指標となります。
長期プライムレートの推移
長期プライムレートについても、短期プライムレートと同じく日本銀行のサイトで過去から現在までの推移を見れます。長期プライムレートは短期プライムレートよりやや活発に変動しますが、2017年7月に1%をつけて以来、変動していません。
こちらも、1990年頃は数値が高く、1990年10月1日に8.9%となっていますが、その後は下降を続け、1995年9月には3%、2003年6月には1.25%をつけています。その後、一時期2%を超える時期もありましたが、概ね1%台を推移しています。
10年国債利回り
固定金利など長期金利に影響を与えるものとして、長期プライムレートの他に10年国債利回りについても確認しておくとよいでしょう。
10年国債利回りの推移
10年国債利回りの推移は日本銀行のサイト日本相互証券株式会社のサイトで確認できます。こちらの推移を見てみると、データを確認できる10年前の金利から一貫して下降しているのが分かると共に、2016年のマイナス金利導入時には一時マイナスをつけており、長期プライムレートよりさらに変動が激しいことが分かります。
なお、2016年末頃にはマイナスから一時プラスに転じていますが、2018年末頃より再度マイナスに振れています。これは、中国やアメリカを要因とした株価の下落を反映したものです。
不動産投資ローンの金利に影響を与える3つの指標について確認しましたが、不動産投資ローンが「超低金利時代が続いている」ことと同じように、いずれの指標についてもずっと下降(もしくは、下降したのち横ばい)していることが分かるかと思います。
これら指標についてはここ数年目立った動きがありませんが、今後の不動産投資ローンの動きを予測するのに役立つため、定期的にどのように変動しているのかを確認するとよいでしょう。
不動産投資ローンの相場
不動産投資ローンに影響を与える指標とその推移をお伝えしましたが、2019年4月現在の不動産投資ローンの金利はどのようになっているのでしょうか。ここでは、以下の3つに分けて不動産投資ローンの金利相場をお伝えしたいと思います。
- メガバンク、都市銀行の金利相場
- 地方銀行の金利相場
- 信用金庫、信用組合の金利相場
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
メガバンク、都市銀行の金利相場
メガバンクや都市銀行の不動産投資ローンは4つの金融機関の中で最も金利水準が低く、概ね1%程度で融資を受けることも可能です。ただし、審査が厳しく簡単に融資を受けることはできません。
特に、始めて不動産投資を始める方が融資を受けるのはかなり難しいです。複数棟所有し、安定して収益が出るようになったころに利用を検討し始めるとよいでしょう。
地方銀行の金利相場
地方銀行の金利相場は1%台後半~2%前半といったところが多いです。メガバンクや都市銀行と比べるとやや審査基準は緩くなりますが、それでも簡単に融資を受けることはできません。
ただし、地方銀行の中には、審査基準をやや緩くして、代わりに高い金利設定にしているところもあります。
信用金庫、信用組合の金利相場
信用金庫、信用組合の金利相場は2%台半ば前後であることが多いです。信用金庫や信用組合で融資を受けるためには、信用金庫や信用組合のある地域で不動産を取得する必要があります。
金利が1%上昇した場合のシミュレーション
金融機関のタイプごとに、大まかな金利相場をお伝えしました。不動産投資ローンの金利に影響を与える短期プライムレートや、長期プライムレートがここ数年ほとんど動いていないように、不動産投資ローンの金利についてもここ数年の間で大きな変動はありません。
しかし、今後は上昇する可能性はあります。ここでは、2019年4月現在の金利水準で不動産投資ローンの融資を受けた場合の返済額と、数年後に1%上昇してしまった場合の返済額をシミュレーションして比較してみたいと思います。
金利2%で融資を受けた場合のシミュレーション
物件価格1億円、総戸数10戸、平均家賃6.5万円/月、経費合計15万円/月といった物件において、地方銀行から借入期間30年、金利2%、借入額1億円で融資を受けられたケースを想定してみましょう。
まず、借入期間30年、金利2%、借入額1億円の場合の毎月返済額は約37万円です。この物件で、ローンの返済をした場合、月にいくらの手残りがあるのかまで計算してみましょう。
平均家賃は6.5万円/戸なので、満室時に6.5万円/戸×10戸=65万円/月の収入が見込めます。ここから、経費15万円/月とローン返済額37万円/月を差し引くと、手残りは13万円です。空室が2室出ると利益は0円、3室以上で赤字の計算です。
数年後、金利が1%上昇した場合
同じ物件で、数年後に金利が1%上昇したらどうなるでしょうか。先ほどと同じ条件で金利を3%に変更すると、毎月の返済額は約42万円となります。満室時の収入65万円/月から経費15万円/月とローン返済額42万円/月を差し引くと、手残りは8万円です。こうなると、空室が2室以上出ると赤字となってしまいます。
あらかじめ金利上昇リスクを見越しておく
金利がいつ、何%上昇するのかを予測することはできません。しかし、いざ金利が上昇した時に、何%上昇したら、どの程度影響を受けるのかについて把握しておくことは大切なことです。
先ほどご紹介したシミュレーションでは、金利に変動がなければ2室までの空室に耐えられますが、金利が1%上昇したら1室の空室でもほとんど利益は出ず、2室以上の空室では赤字となってしまいます。
なお、同じ物件を取得するにしても、「金利を下げてもらう」ことや「借入額を減らす」ことで手残り額を増やすことができます。例えば、金利2%で借入額を9,000万円にした場合、毎月返済額は約33万円になりますが、金利を1%にできれば約32万円/月とすることができます。
このように、あらかじめ具体的に計算しておき、金利上昇リスクを見越しておくことをおすすめします。