不動産投資の物件選びは利回りで比較するのが一般的ですが、表面利回りや実質利回りなどさまざまな利回りがあるのをご存知でしょうか。本記事では利回りについて種類ごとの計算方法をお伝えすると共に、不動産投資で用いるべき利回りについて、その理由と共に解説していきます。
不動産投資における利回りとは
最初に不動産投資における利回りの基本的な内容をお伝えします。
そもそも利回りとは?
利回りとは、投資額に対して一定期間中にどのくらい回収できるかを表す数値で、一般的に利回りと言えば、一定期間=1年間の「年間利回り」のことを指します。例えば、1,000万円投資して年間で100万円回収できるのであれば、利回りは以下のようにして計算します。
年間利回り=100万円(1年間の回収額)÷1,000万円(投資額)×100(%)=10%
不動産投資における4つの利回り
不動産投資で利回りを計算する場合は「回収額」が利益だけなのか、経費を差し引いた額なのか、経費を差し引き、さらにローンの返済額を差し引いた額なのか、によって異なります。
- 表面利回り
- 実質利回り
- 借入金返済後利回り
- 自己資金利回り
表面利回りの計算方法
表面利回りは経費などを考えず物件価格と家賃収入のみから算出する利回りで、以下の計算式で求めることができます。
表面利回り=年間家賃収入÷購入価格×100
例えば、1億円で購入するマンションの月々の家賃収入が80万円だった場合、表面利回りは(80万円×12カ月=960万円)÷1億円×100(%)=9.6%となります。
家賃収入には現況と想定がある
表面利回りについて留意しておきたい点として、家賃収入には現況と想定の2つがあります。現況とは、例えば10室あるうちの2室が空室となっているのであれば、残りの8室分の家賃だけを用いて計算する方法で、一方で想定とは、2室空室となっている場合でも10室全て埋まっていると想定して計算します(後者を想定利回りと呼びます)。
想定利回り=年間家賃収入(満室想定)÷購入価格×100(%)
例えば、先ほどと同じ1億円のマンションが、満室だと月々100万円の収入を得られるとすると、想定利回りは(100万円×12カ月=1,200万円)÷1億円×100(%)=12%となります。このマンションは、空室を埋めれば利回り12%にできるポテンシャルを持っていると見ることもできますが、あくまでも想定である点には注意が必要です。
実質利回りの計算方法
実質利回りは物件価格、家賃収入、かかった経費から計算する利回りで、以下の計算方法で算出できます。
実質利回り=(年間家賃収入-年間経費)÷購入価格×100(%)
経費には、建物の管理費や修繕費、修繕積立金、固定資産税、保険料、税理士報酬などが該当します。表面利回りより詳細に実際の資金繰りを想定できます。
例えば、1億円で購入したマンションの家賃収入が80万円/月、経費が20万円/月だった場合、{(80万円-20万円)×12カ月=720万円}÷1億円×100=7.2%です。
借入金返済後利回りが最も重要
実質利回りは家賃収入から各種経費を差し引きますが、不動産投資において非常に重要な要素である「ローン返済額」については考慮していません。
しかし、実際に経営を始めると毎月ローン返済額は手元から出ていくのですから、あらかじめ想定しておくべきです。借入金返済後利回りは実質利回りにローン返済額の要素を加えて計算する利回りで、以下の計算式で求めます。
借入金返済後利回り={年間家賃収入-(年間経費+年間借入金返済額)}÷購入価格×100(%)
例えば、1億円の物件(家賃収入80万円/月、経費20万円/月)を購入するのに、9,000万円のローン(金利2%、返済期間20年)を組んだ場合、返済額は約45万円/月なので、以下のように計算します。
{(80万円(家賃収入)-20万円(経費)-45万円(借入金返済額))×12カ月=180万円}÷1億円×100(%)=1.8%
ここまで、全て同じマンションを想定して計算してきていますが、表面利回りの8%と比べると借入金返済後利回りが1.8%というのに驚かれた方もいるのではないでしょうか。ローンの条件や家賃収入の上下によっては、実質的な利回りがさらに低くなることもあります。物件購入前に利回りを求める際には、必ずこの借入金返済後利回りまで計算するようにしましょう。
自己資金利回り
自己資金利回りは、先に紹介した表面利回りや実質利回りとはやや毛色が異なりますが、「投資した自己資金に対する利回り」を求めます。これは、特に株式投資や投資信託など他の投資と比較する際に、手元の資金でどのくらい利益を得られるのかを判別するのに役立つ計算方法です。自己資金利回りの計算式は以下の通りです。
自己資金利回り={年間家賃収入-(年間経費+年間借入金返済額)}÷投資自己資金×100(%)
なお、自己資金には、物件購入時の頭金と、物件購入のための諸経費のために支出した金額も含みます。例えば、1億円の物件(家賃収入80万円/月、経費20万円/月、借入金返済額45万円/)を購入するにあたり、1,000万円の頭金と共に、経費のために1,000万円支払ったとすると、自己資金利回りは以下のようになります。
{(80万円-20万円-45万円)×12カ月=180万円}÷2,000万円×100(%)=9%
株式投資では、東証1部の予想株式益利回りは7%程度、また投資信託でインデックスファンドに投資した場合の平均利回りは4~6%程度なので、株式投資や投資信託よりやや利回りがよいことが分かります。不動産投資の場合、融資を受けて物件を取得するため、借入さえできれば自己資金の比率を下げて自己資金利回りを高めることができます。
しかし、その分毎月の手残りのお金が少なくなり、運用が難しくなることも考えられるため、バランスを見て決めることが大切です。
不動産投資はキャッシュフローが全て
不動産投資において、利回りを見る際には借入金返済後利回りを計算すべきと述べました。理由は不動産投資においては「キャッシュフロー」が何よりも重要だからです。
キャッシュフローとは「現金」の流れを表す言葉ですが、不動産投資では常にキャッシュフローを改善して手元に現金を残しておくことが大切です。
税金が高額
不動産投資においてキャッシュフローが重要であることの1つの理由としては、税金が高額であることが挙げられます。具体的には、取得時に不動産取得税が、保有時に固定資産税・都市計画税が課され、毎月の家賃収入に対しては不動産所得として、売却時には譲渡所得として法人税・所得税・住民税が課されます。
それぞれ、各種軽減を受けることができますが、税率だけで見ると不動産取得税は物件の固定資産評価額の3%、固定資産税は1.4%、都市計画税は0.3%です。
また、不動産所得については所得が大きくなるほど税率が高くなり、譲渡所得は所有期間5年超の場合で20.315%(所得税+住民税)となっています。1億円程度の物件であれば数百万円の出費となることも少なくなく、支払いに向けてしっかり現金を蓄えておく必要があります。
よいキャッシュフローを保つコツ
それでは、よいキャッシュフローを保つにはどうすればよいのでしょうか?ここでは、以下の3つについてお伝えしたいと思います。
- 物件取得
- 修繕とリフォーム
- ローン
物件取得
まず、物件取得時に立地のよい物件を選ぶようにしましょう。利便性の高い駅に近いなど、立地がよければ空室が出づらく、また空室が出たとしても次の入居者を見つけやすいです。
一般的に、立地のよい物件は利回りが低く、立地のよくない物件は利回りが高い傾向にあります。物件取得時に、高い利回りにつられて立地のよくない物件を選ぶと取得後に空室リスクが高くなり、キャッシュフローが悪化する可能性が高くなります。
修繕とリフォーム
物件取得後、運用して数年経つとエアコンの取り換えや外壁の修繕、塗り替え、居室のリフォーム等の必要が生じてきます。こうした修繕やリフォームはお金がかかるため、実行のタイミングに悩むものですが、放っておくと入居率の悪化につながってしまいます。
修繕やリフォームについては早すぎもなく、遅すぎでもない適切なタイミングで行うとともに、複数室で同時にエアコンの取り換えをする等して1回の工事費用をできるだけ少なくしていく努力が必要です。
ローン
最後に、物件購入の際に大抵の人が組むことになるローンについては「返済期間」と「金利」、「自己資金」の3つについて、できるだけよい条件となるようにしましょう。返済期間については、木造や鉄骨造、RC造など構造ごとに定められた耐用年数ごとに、築年数に応じて上限が決められます。
例えばRC造の法定耐用年数は47年となっており、築20年のRC造物件を購入する場合は27年程度が上限となる計算です。なお、耐用年数については上記の法定耐用年数通りとは限らず、さまざまな条件を考慮して定める「経済的耐用年数」で返済期間を決めることがあります。
この経済的耐用年数は金融機関によって異なるため、複数の金融機関で審査を受けてみてもよいでしょう。金利についても、適用される金利は金融機関によって異なります。
また、できるだけ自己資金を多くした方が購入後のキャッシュフローをよくすることができます。自己資金0円で購入するフルローンや、経費分まで融資を受けられるオーバーローンで融資が下りるケースもありますが、その分月々の返済額が多くなり、キャッシュフローが悪化するためおすすめしません。
とはいえ、自己資金の比率を高めすぎると投資のスピードが遅くなってしまいます。経費と頭金を含めた自己資金が2~3割程度になるのが目安と考えてよいでしょう。
不動産投資の利回りにおける注意点
不動産投資において利回りを見る際にはいくつか注意しなければならないことがあります。
利回りは最初が一番高い
まず、基本的に利回りは物件の建設時や購入時といった最初のタイミングが一番高いということです。賃貸物件は築年数が経つほど設備が古くなり、建物自体も劣化していくため人気が落ちていきます。
購入したばかりの頃と比べると、年数が経った物件は空室率が高くなっていき、競合する賃貸物件に負けないために家賃を下げなければなりません。利回りは年数が経つごとに悪化していくことを想定しておきましょう。
想定家賃を確認しておく
また、利回りを想定家賃で算出している場合には、実際にその家賃が受け取れるとは限らないため注意が必要です。想定家賃は周辺相場や過去の家賃設定から算出しますが、周辺相場の場合はどういった物件を参照しているのか、過去の家賃は築何年頃の家賃設定なのかといった点を確認しましょう。
売主はできるだけ利回りを高く見せたいため、ウソのない範囲で想定家賃を高く設定するのが普通です。
長期入居の物件
入居中の部屋であっても、長期入居中の部屋がある場合には要注意です。例えば入居者が10年間住み続けている部屋の場合、次の入居者が決まった場合に購入当初の家賃で貸し出すのは難しいでしょう。
利回りを計算する際は、長期入居中の部屋については現在の築年数であればいくらで貸せるかを想定して計算することをおすすめします。
自分で利回りを計算することが重要
不動産投資における利回りについて、利回りの種類や計算方法、キャッシュフローをよくするコツなどについてお伝えしました。不動産投資ではキャッシュフローがとても大事で、そのためには購入前に現実的な利回りを知ることが重要です。
チラシ等で見られる表面利回りではなく、経費やローン返済額まで想定した借入金返済後利回りを計算することがとても大切なのです。