不動産を対象とした投資信託である「J-REIT」は、新しい不動産投資の形として注目を集めています。
直接投資よりも小さな資金から始められるだけではなく、専門の知識や経験などがなくても気軽に購入できるのです。
しかし、金融商品である以上、J-REITへの投資にもリスクはあります。
もっとも大きなリスクは、J-REITそのものが倒産したり経営破綻したりするというものです。
実際に倒産・経営破綻したJ-REITの事例を見ることで、どのようなリスクがあるのかを解説していきます。
2008年破綻のニューシティ・レジデンス
2019年4月現在、J-REITの破綻事例は1つだけです。
それは2008年10月に起こった「ニューシティ・レジデンス投資法人」の破綻でした。
資金調達に失敗したことが直接的な原因となり、経営破綻・民事再生法の申請を行うことになったのです。
その経緯について見ていきましょう。
発端はリーマンショック
ニューシティ・レジデンス投資法人が破綻した直接の原因は、「ニューシティ・レジデンス池袋プレシャスタワー」を取得するための資金調達ができなかったことです。
当時のニューシティ・レジデンス投資法人の資産規模は、およそ1700億円でした。
それに対し、池袋プレシャスタワーの価格は277億円であり、資産規模に対してかなり大きな物件だったのです。
池袋プレシャスタワーの取得は、フォワードコミットメント(将来的に取得をするという形式の契約)で行われました。
契約締結は2007年12月であり、この時点では資金調達の目途も立っていたと言えます。
ところが、2008年9月にリーマンショックが起こったのです。
これにより、世界的な信用収縮が発生し、金融市場は混乱に陥りました。
一般的に、不動産投資法人が新たな物件を購入する場合、ローンや公募増資による資金調達が必要です。
しかし、リーマンショックによって金融市場における資金の流れが滞った結果、資金調達は失敗してしまいました。
池袋プレシャスタワーの購入代金の支払いは行えず、契約不履行により55億円の違約金が発生しましたが、支払いができなかったために経営破綻となったのです。
アメリカでも破綻
J-REITのもととなったREITは米国で生まれました。その米国においても、REITの破綻は起こっています。
破綻したのは、米国内でも有力だったREIT「ゼネラル・グローズ・プロパティーズ」です。
2009年4月に破産法適用を申請したことで、実質的な経営破綻を迎えました。
資金調達のため、モーゲージ(譲渡抵当)の借り換えや一部不動産の売却を目指していましたが、結局は債務不履行を起こしてしまったのです。
こちらも、リーマンショックの影響が大きかったと言われています。
金融市場の影響が大きい
日本のJ-REITだけではなく、REITの性質として、「資金調達」はとても重要です。
不動産投資法人が、銀行から融資を受けたり出資者を募ったりすることで資金を集めなければ、不動産の取得ができなくなるからです。
ニューシティ・レジデンスの破綻は、たった1件の不動産取得における資金調達ミスが原因でした。
1つの投資案件であっても、契約不履行が起これば、経営破綻を起こす可能性があります。
だからこそ、資金調達元となる金融市場の影響は非常に大きいのです。
ただ、逆に言えば、金融市場が安定している時期なら、J-REITへの投資は手堅いと言えます。
実際に、リーマンショック以降、2019年4月現在までJ-REITの破綻は起こっていません。
破綻後の流れ
2008年10月に実質的に破綻したニューシティ・レジデンスは、2008年11月に上場廃止となりました。
その後、ビ・ライフ投資法人(現・大和ハウスリート投資法人)と合併し、ニューシティ・レジデンスの投資者へ一定割合で合併先の証券が発行されています。
そのため、ニューシティ・レジデンスの投資者も、ある程度の救済が行われたと言えます。
J-REITが破綻しても、保有している不動産自体が価値を失うわけではありません。
ただし、上場廃止となれば、購入したJ-REITを売却することは難しくなります。
もし、購入したJ-REITが経営破綻となった場合は、保有するか売却するかを素早く判断することが求められるのです。
リスクについて理解を深める
J-REITは、少額からでも始められる不動産投資です。
プロによる経営・運用がされる不動産投資法人に出資することで、配当や売却益を狙えます。
その一方で、金融市場の影響を受けやすく、投資法人そのものが破綻するリスクや上場廃止の可能性もあります。
ただし、ニューシティ・レジデンスの破綻をきっかけに、多くのJ-REITで財務状況の改善が行われています。
そのため、以前よりもリスクが小さくなっていると言われています。
それでもリスクが完全になくなることはないので、投資前にしっかりと情報を精査しておきましょう。