不動産投資では利益が出ると、所得税、住民税が発生するほか、所得時や取得した後に印紙税や登録免許税、固定資産税、都市計画税、不動産取得税、消費税といった税金を納める必要があります。それぞれ、高額になる場合もあるため、どの段階でどの程度の税金の支払いが必要になるかを把握しておくことが非常に重要です。
本記事では、それぞれの税金について必要な時期、それぞれどのくらいの納税額になるのか、シミュレーションしていきます。
不動産投資で支払う税金
不動産投資に取り組んでいると、さまざまな税金を納める必要があります。ここでは最初に、不動産投資で納める税金について、以下の3つの時点に分けて解説します。
- 物件購入時
- 物件保有時
- 物件売却時
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
物件購入時
物件購入時の納める税金は以下の通りです。
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 印紙税
- 消費税
登録免許税は所有権移転登記費用など、登記の際に納める必要があります。
また、不動産取得税は物件取得時に1回だけ納める必要のあるもので、物件取得後3カ月~1年程度で納付書が送られてきます。印紙税は売買契約書や請負契約書に貼り付けて納付するもので、消費税は売主が課税業者である場合に支払う必要があります。
物件保有時
次に、物件保有時に納める税金は以下の通りです。
- 固定資産税
- 都市計画税
- 所得税、住民税(不動産所得)
固定資産税、都市計画税については、不動産の1月1日時点の所有者に対して課されるもので、都市計画税については物件が市街化区域内にある場合だけ課税されます。
また、物件から得られる家賃収入に対しては、家賃収入を得るために要した経費を差し引いた所得額に対して所得税と住民税が課されます。
物件売却時
最後に、物件を売却する時は以下の税金を納める必要があります。
- 登録免許税
- 印紙税
- 所得税、住民税(譲渡所得)
物件を売却する時は、物件取得時のローン完済と同時に抵当権を抹消するための抵当権抹消登記費用などとして、登録免許税を納める必要があります。
また、取得時と同じく売買契約書には印紙を貼る必要があります。そして、物件を売却して得られた利益に対しては、物件取得費や譲渡時の経費を差し引いた所得に対して譲渡所得税が課されます。以下、それぞれについて、どのくらいの納税額になるのかのシミュレーションをしていきたいと思います。
物件購入時の納税額シミュレーション
ここでは、以下のような物件を購入した時の納税額をシミュレーションします。
- 物件価格1億円(内、建物6,000万円、土地4,000万円)
- アパートローン1億円
- 固定資産税評価額8,000万円(建物4,800万円、土地3,200万円)
- 売主は課税業者
登録免許税
まず、物件購入時には所有権移転登記を、ローンを利用する場合には抵当権設定登記をする必要があり、それぞれについて登録免許税を納める必要があります。登録免許税の税率は以下の通りです。
- 土地の所有権移転登記(売買)…固定資産税評価額×2%
- 建物の所有権移転登記(売買)…固定資産税評価額×0.2%
- 抵当権の設定登記…債券価格×0.4%
それぞれについて計算すると以下のようになります。
- 土地の所有権移転登記(売買)…3,200万円×2%=64万円
- 建物の所有権移転登記(売買)…4,800万円×0.2%=9.6万円
- 抵当権の設定登記…1億円×0.4%=40万円
- 合計額…64万円+9.6万円+40万円=113.6万円
不動産取得税
次に、物件購入時には不動産取得税を納める必要があります。不動産取得税の税率は以下の通りです。
・土地・建物の税額=固定資産税評価額×3%(2021年3月31日まで)
また、新築住宅については固定資産税評価額から1,200万円の控除を受けられ、宅地については固定資産税評価額を1/2にした後、一定の控除額を差し引くことのできる制度が用意されています。土地の控除額については、ここでは計算を簡単にするため45,000円として計算します。
上記控除を含めると納税額は以下の通りです。
- 土地の不動産取得税=(3,200万円×1/2×3%)-45,000円=43.5万円
- 建物の不動産取得税~(4,800万円-1,200万円)×3%=96万円
- 合計額…43.5万円+96万円=139.5万円
印紙税
売買契約書に貼り付けする印紙です。印紙税については、売買契約書に記載する金額ごとに以下のように納税額が定められています。
記載された契約金額 | 税額 |
---|---|
10万円を超え 50万円以下のもの |
200円 |
50万円を超え 100万円以下のもの |
500円 |
100万円を超え 500万円以下のもの |
1千円 |
500万円を超え 1,000万円以下のもの |
5千円 |
1,000万円を超え 5,000万円以下のもの |
1万円 |
5,000万円を超え 1億円以下のもの |
3万円 |
1億円を超え 5億円以下のもの |
6万円 |
5億円を超え 10億円以下のもの |
16万円 |
10億円を超 50億円以下のもの |
32万円 |
50億円を超えるもの | 48万円 |
今回の場合、売買価格は1億円なので納税額は3万円となります。
消費税
売主が課税業者の場合、消費税を納める必要があります。今回は課税業者であることを想定していますが、課税業者の場合でも土地については非課税で、建物に関する消費税だけ支払えばよいこととなっています。そのため、消費税額は以下のように計算することができます。
・消費税額…6,000万円×8%=48万円
なお、ここまでを合計すると以下のようになります。
- 登録免許税…113.6万円
- 不動産取得税…139.5万円
- 印紙税…3万円
- 消費税…48万円
- 合計額…304.1万円
上記の通り、結構な金額となることが分かります。特に、不動産取得税については物件取得後3カ月~1年後と、忘れた頃にやってくる点にも注意が必要です。納税資金についてしっかり用意しておくようにしましょう。
物件保有時の納税額シミュレーション
次は物件保有時の納税額シミュレーションです。ここでは、以下の物件と状況を想定します。
- 固定資産税評価額8,000万円(建物4,800万円、土地3,200万円)
- 土地面積300㎡
- 年間家賃収入800万円
- 年間経費240万円
- 給与所得500万円
それでは、詳しく見ていきましょう。
固定資産税
固定資産税の税率は以下の通りです。
・土地、建物の固定資産税評価額×1.4%
ただし、土地については200㎡までが1/6に、200㎡超を超える部分が1/3になる特例があります。納税額を計算すると以下のようになります。
- 土地の固定遺産税…(3,200万円×2/3×1/6×1.4%)+(3,200万円×1/3×1/3×1.4%)=約10万円
- 建物の固定資産税=4,800万円×1.4%=67.2万円
- 合計額=77.2万円
都市計画税
次に、都市計画税の税率は以下の通りです。
・土地・建物の都市計画税…固定資産税評価額×0.3%
たたし、土地については200㎡までが1/3に、200㎡超の部分が2/3になる特例があります。納税額を計算すると以下の通りです。
- 土地の都市計画税…(3,200万円×2/3×1/3×0.3%)+(3,200万円×1/3×2/3×0.3%)=約4.3万円
- 建物の都市計画税…4,800万円×0.3%=14.4万円
- 合計額…18.7万円
所得税、住民税(不動産所得)
最後に、所得税と住民税の計算です。不動産所得は以下のように計算します。
・不動産所得=総収入金額-必要経費
ここでは、総家賃が800万円、経費が240万円なので、不動産所得は以下のように計算できます。
・800万円-240万円=560万円
また、不動産所得は給与所得など他の所得と合算して計算します。ここでは、給与所得は500万円なので、総所得は以下の通りです。
・560万円(不動産所得)+500万円(給与所得)=1,060万円(総所得)
そして、計算した総所得に対し、以下の速算表を用いて納税額を算出します。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,500円 |
なお、住民税の税率所得額に関わらず一律10%です。以上から、所得税と住民税の納税額は以下のようになります。
- 所得税…1,060万円×33%-153.6万円=196.2万円
- 住民税…1,060万円×10%=106万円
- 合計額…302.2万円
不動産保有時の税金を合計すると以下のようになります。固定資産税77.2万円 + 都市計画税18.7万円 + 所得税・住民税 + 302.2万円=398.1万円
ただし、所得税と住民税については給与所得分も含まれるため、不動産投資だけの納税額とは異なります。
物件売却時の納税額シミュレーション
最後に、物件売却時の納税額をシミュレーションしましょう。ここでは、以下の物件の売却を想定します。
- 売却価格1億円(建物6,000万円、土地4,000万円)
- 物件の取得費6,000万円(建物2,000万円、土地4,000万円)
- 物件の譲渡費用1,000万円
- 保有期間10年
- 土地1筆、建物1筆
- それでは、納税額を
登録免許税
売却する不動産について、ローンの残債がある場合には、物件売却と同時にローンを完済し、抵当権を抹消する必要があります。抵当権抹消登記の登録免許税は以下のように計算できます。
・抵当権抹消登記の登録免許税…筆数×1,000円
今回売却する物件は土地1筆、建物1筆なので合計2筆で2,000円が納税額となります。
印紙税
物件を売却する時の売買契約書にも印紙を貼って印紙税を納める必要があります。売却価格が1億円なので、納税額は取得時と同じ3万円です。
所得税、住民税(譲渡所得)
最後に、不動産を売却して得られた利益に対し、譲渡所得税が課されます。不動産の譲渡所得は分離課税で、給与所得などと合算する必要はありません。また、不動産の譲渡所得の税率は、売却する不動産の所有期間ごとに以下のように決められています。
所有期間 | 所得税 | 住民税 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30.63% | 9% | 39.63% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15.315% | 5% | 20.315% |
また、不動産の譲渡所得は以下のように計算します。
- 課税譲渡所得=売却価格-取得費-譲渡費用-特別控除
- 納税額=課税譲渡所得×税率
上記を計算すると以下のようになります。
- 1億円-6,000万円-1,000万円-0万円=3,000万円
- 3,000万円×20.315%=609.45万円
不動産の売却時の納税額を計算すると以下の通りです。
登録免許税2,000円+印紙税3万円+住民税、所得税609.45万円=612.65万円
事前に税金額を確認
不動産投資を行う上で支払う必要のある税金について、物件購入時と保有時、売却時に分けて必要な税金の解説とシミュレーションを行いました。不動産投資では大きな金額が動くことから、税金も高額になってしまうことが少なくありません。
いつ、どのタイミングでどのくらいの納税が必要なのかを事前に把握して、計画的に準備を進めるようにしましょう。