不動産投資では、不動産保有中は不動産所得の、不動産売却時には譲渡所得の税金を納める必要があります。それら税金の計算については、自分で必要書類を準備し、納税額を計算し、確定申告しなければなりません。
本記事では、不動産投資における確定申告について、申告の基礎知識や手順、申告方法などお伝えしていきます。
利益が出ると確定申告する必要がある
不動産投資で利益を上げると確定申告する必要があります。不動産投資で利益が上がる可能性のあるケースとしては、入居者から家賃収入を受けられる不動産保有時と、不動産の売却代金が利益となる不動産の売却時です。
不動産保有時の確定申告
不動産を保有しており家賃収入があると、その収入について毎年確定申告する必要があります。家賃収入から、賃貸経営で支払った経費を差し引いた額を「不動産所得」として計算し、その所得額に応じた税金を納める必要があります。
なお、不動産所得は給与所得等と合算した合計の所得に対して納税額が決まります。所得に応じて「控除額」と「税率」が決められており、所得額が多くなればなるほど税率が高くなっていく「累進課税制度」となっています。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,500円 |
なお、1年間の運営の結果、家賃収入より経費等が高くなってしまった場合には税金を納める必要はありません。
また、サラリーマンの方で別に給与所得がある場合には、不動産所得のマイナス分を給与所得から差し引き、還付を受けることもできます。これを、損益通算と呼びます。
不動産投資ではこれらの計算について、自分で計算し、確定申告する必要があります(費用を支払えば税理士に代行してもらうこともできます)。なお、所得に応じて住民税も納める必要がありますが、住民税については所得税の確定申告内容に基づいて納税額が計算され、納付書が送られてきます(もしくは、源泉徴収されます)。
不動産売却時の確定申告
保有物件を売却し利益が出た場合には、その利益について不動産の譲渡所得として確定申告する必要があります。不動産の譲渡所得は、不動産の所有期間に応じて以下のように税率が定められています。
所有期間 | 所得税 | 住民税 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30.63% | 9% | 39.63% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15.315% | 5% | 20.315% |
なお、不動産の譲渡所得については、不動産所得のように他の所得と合算して計算することができません。場合によってはかなりの納税額となってしまうこともあるため、売却前からどのくらいの納税額になるかを計算し、資金の準備をしてく必要があります。
青色申告と白色申告
不動産所得に関する確定申告については、その規模次第では青色申告と白色申告のどちらかから選ぶことができます。具体的には、以下のような規模である場合です。
- 賃貸できる独立した部屋が概ね10室以上あること
- 賃貸できる建物が5棟以上あること
上記の条件を満たしている場合、青色申告を選ぶことができます。青色申告を選ぶと、「複式簿記による記帳」と「貸借対照表と損益計算書を添付すること」が義務付けられますが、最大で65万円の控除(青色申告特別控除)を受けられます。
確定申告で経費にできるもの
不動産所得の計算では、家賃収入から各種経費を差し引くことができます。不動産所得で経費とできる項目には以下のようなものがあります。
- 固定資産税、都市計画税、登録免許税、不動産取得税、印紙税の各種税金
- 火災保険料
- 維持管理費
- 修繕費(原状回復費)
- 修繕積立金
- 借入金利子
- 交通費(不動産投資に関するセミナー参加や物件調査、打ち合わせ)
- 不動産投資に関する新聞や書籍購入代
- 管理会社や税理士等との打ち合わせに要した接待費
上記以外にも経費として計上できるものもありますが、判断の難しいものについては税理士に相談するようにしましょう。
確定申告の申告手順
ここでは、確定申告書の作成手順についてご紹介します。
必要書類の準備
まずは、必要書類を準備しましょう。必要書類については、大きく3つに分類することができます。
- 源泉徴収票
- 不動産の売買と家賃収入に関する書類
- 経費に関する書類
それぞれについて、詳しく解説します。
源泉徴収票
まず、サラリーマンの方は会社から発行される源泉徴収票を用意しましょう。毎年年末~年始に会社から交付を受けているはずです。交付を受けていない場合、または紛失してしまった場合には会社に相談するようにします。
なお、確定申告では源泉徴収票の原本を提出する必要があるため、手元にコピーを残しておくとよいでしょう。
不動産の売買と家賃収入に関する書類
保有時の不動産所得の計算のため、また売却時の譲渡所得計算のために必要な書類です。具体的には、以下のような書類が必要です。
- 売買契約書(建物請負契約書)
- 賃貸契約書
- 売渡清算書や家賃送金明細書
- 譲渡対価証明書
それぞれ、紛失してしまった場合には交付を受けた不動産会社や建設会社、管理会社等に問い合わせしましょう。
不動産売却時には、取得費として売却する不動産を取得した時の価格を計上することができますが、その額を証明できる書類がない時は概算費として売却価格の5%を計上します。場合によっては納税額に大きな違いが出てしまうため、しっかり書類を準備しておくようにしましょう。
経費に関する書類
不動産所得にせよ譲渡所得にせよ、その所得を得るのに要した費用の中には経費として計上できるものがあります。それらの経費について、税金の納付書や保険料の明細書、ローンの返済明細書等、金額の分かる書類を用意する必要があります。
確定申告書の作成
必要書類が用意できたら、確定申告書を作成します。申告書は税務署に行けば交付を受けられます。不動産所得の計算に際しては確定申告書Bと、収支内訳書、譲渡所得の計算に際しては確定申告書Bに加えて分離課税の確定申告書、譲渡所得の内訳書が必要となります。
不動産所得の確定申告書
不動産保有時の収支を計算する不動産所得に関しては、確定申告書Bと収支内訳書を用意する必要があります。
確定申告書Bでは会社から受け取った源泉徴収票に応じて給与所得など記入すると共に、家賃収入から各種経費を差し引いた不動産所得を算出し記入します。また、不動産所得に関する収入や経費については、収支内訳書に詳しく記載する必要があります。
譲渡所得の確定申告書
不動産売却時の利益額を計算する譲渡所得に関しては、確定申告書Bと分離課税の確定申告書、譲渡所得の内訳書が必要です。不動産に関する譲渡所得は分離課税と言って、給与所得等の所得とは別に計算する必要があります。
確定申告書Bでは給与所得や不動産所得などの計算結果を記入し、不動産を売却して得られた代金から各種経費を差し引いた譲渡所得については、分離課税の確定申告書に記入、その内訳について譲渡所得の内訳書に記入します。
なお、インターネット環境があれば、不動産所得、譲渡所得いずれについても、国税庁のサイト(e-Tax)から確定申告書の作成を進めることもできます。
確定申告書の提出
確定申告書の作成が済んだら、確定申告書を提出します。e-Taxでは、作成した確定申告書を印刷して税務署に持参することもできますし、環境が整っていればインターネットから直接申告することもできます。
確定申告の期限と提出方法
確定申告書はいつまでの、どのような方法で提出する必要があるのでしょうか?
確定申告の申告期限
確定申告書の提出は毎年2月16日~3月15日までの間に行う必要があります。2月16日、もしくは3月15日が土日の場合は日程は後ろ倒しにされます。
ちなみに、確定申告で還付を受けるための申告であれば、上記期限に関わらず、いつでも提出することができます。「いつでも」とはいえ、その年分の申告については前年の12月31日にならないと確定しないため、1月1日以降ということになります。また、確定申告で遡って還付を受けられるのは5年前までとなっています。
確定申告書の提出方法
確定申告書の提出方法としては以下の3つの方法があります。
- 税務署に持参する
- 税務署に郵送する
- インターネットで申告する
それぞれについて確認していきましょう。
税務署に持参する
税務署で交付を受けた確定申告書に記入するか、e-Taxで作成した確定申告書を印刷して税務署に持参し提出します。税務署は平日しか空いていないので、平日に時間を作る必要があるのと、確定申告期間中は税務署が混むので余裕を持って提出を進める必要があります。
期限が近付くほど税務署が混むことが多いので、できるだけ早いタイミングで提出するとよいでしょう。なお、自治体によっては期間中、日曜日等に確定申告の会場を設けてくれることもあります。
税務署に郵送する
税務署に確定申告書を郵送して提出することもできます。平日に時間を取れない方や並びたくない方におすすめです。
ただし、税務署で申告すれば必要書類の確認など必要最低限のチェックを受けられますが、郵送の場合それがありません。より、自分で厳しくチェックする必要があると言えるでしょう。
インターネットで申告する
環境を整えられれば、e-Taxで作成した申告書でそのまま申告することもできます。具体的には、市販のカードリーダーを用意してマイナンバーカードの情報を読み取れるようにするか、確定申告前に税務署に足を運び、IDとパスワードを発行してもらう必要があります。なお、ネットで申告した場合でも添付書類については別途税務署に送付する必要があります。
確定申告に備える
不動産投資を行う上で必要となる確定申告について、不動産保有時の不動産所得と不動産売却時の譲渡所得、両方のパターンでお伝えしました。確定申告は必要書類の準備や計算等、面倒なことも多いですが、毎年期間の決まっているものなので、前もって計画的に進めていくとよいでしょう。